紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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 有機栽培で使える防除手段 (害虫編)

1.各種の防除手段

 有機栽培において、害虫を防除するためには、化学合成農薬を使わずに、耕種的方法、物理的方法、生物的方法などを組み合わせて、生態系の力を借りながら、害虫の多発生を抑制し、被害を抑制する。以下、害虫防除の方法について触れるが、これらの方法ではどうしても被害が大きくなりそうな場合に限って使用が認められている農薬についても触れる。

 1)耕種的方法

輪作: 同じ圃場で、同一の作物を毎回(年)栽培せずに、異なる作物を取り入れながら栽培する方法。害虫や病原の蓄積を抑制、回避する。例えば、センチュウによる被害を回避するためには、対抗植物といわれるセンチュウ密度を低下させる作物との輪作が有効である。

混作: 同じ圃場で、同時に複数の種類の作物を栽培して、単一栽培で生じるような病害虫の多発生を抑制、回避する。その理由は、別の作物が害虫や病原の移動分散を妨げる。害虫の場合には、落下個体(幼虫等)が元の寄主植物に戻りにくくなる、成虫が産卵対象を見つけにくくなる、忌避的な植物を植えることにより産卵や移動を阻害する、ソルゴーなどの背の高い植物を植えると、害虫の移動分散を阻害し寄主植物の発見を遅らせることができることなどである。

作期の移動 害虫が産卵する時期を避けて、播種、田植え、定植を行うと、産卵される量が減り、害虫による被害が減る。

抵抗性品種の利用 害虫に抵抗性の作物の品種は、それほど多くないが、トマトのセンチュウ抵抗性品種などが知られている。

 2)物理的方法

防虫網 ハウスなどでは、側窓、天窓を防虫網で覆うことにより、4mm目ではヤガ類を、1mmではアブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類の侵入を抑制できる。さらに、網目に銀色の細工を施した防虫網では、同一目合いの普通のものよりもコナジラミ類の侵入防止効果が高まる。目合いが小さくなるほど侵入防止効果が高まるが、最近では、シルバーリーフコナジラミやタバココナジラミ・バイオタイプQの侵入防止のために、目合い0.4mmの防虫網が普及している。目合いの大きさは害虫のサイズと関係し、キスジノミハムシでは0.8mmでハウスへの侵入を防止することができる(兵庫県成績)。しかし、目合いが細かくなると、ハウス内部の温度が上昇するという問題が生じる。

捕殺
: 害虫を見つけて捕る方法である。害虫を見つけるには、被害痕のある場所、害虫の糞のある場所を探すとよい。ヨトウムシは、昼間は根の周辺の土中にいるので見つけにくいので、活動する夜間に葉上を探すと見つかりやすい。

黄色蛍光灯: ハスモンヨトウ、オオタバコなどのヤガ類は、夜間に黄色蛍光灯の光があると活動が抑制され、これらの害虫による被害が抑えられる。果樹を加害するアケビコノハなどの吸蛾類も夜間に黄色電球などの光によって加害が抑制される。チャバネアオカメムシも黄色の光で飛来が抑制される。

誘蛾灯
 蛾類は夜間に白色、青色、ブラックライトなどに誘引される。このため、防虫網でしっかりと覆ったハウス内で、夜間に誘蛾灯を点灯することにより、害虫の密度を下げ、被害を軽減できる。性フェロモンと誘蛾灯を併用することにより、それぞれ単独で設置した場合よりも、被害を軽減されるという報告もある。

色彩トラップ: コナジラミ類、アザミウマ類、マメハモグリバエでは、色彩トラップによって、害虫の発生量をモニタリングするとともに、黄色粘着リボンでコナジラミ、ライトブルーの粘着リボンでミナミキイロアザミウマの防除を行うことがある。

シルバーマルチ、シルバーストライプマルチ 土壌表面をマルチングする場合に、銀色や銀色の縞のものを用いると、アブラムシ類やアザミウマ類の圃場への飛来を抑制できる。しかし、作物が生長し、マルチ表面が覆われてくると効果が無くなる。ミカン園で紫外線反射シートを土面に敷くと、アザミウマの飛翔移動を妨げて、アザミウマによる被害を抑制することができる。

近紫外線除去フィルム: ハウスの被覆資材として、通常のフィルムを近紫外線除去フィルムに変えると、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類のハウス内への侵入が抑制される。しかし、一度侵入した害虫の増殖はほとんど妨げられない。育苗用の専用ハウスで近紫外線フィルムを使用すると、害虫の侵入が抑制され、クリーン苗を育てるのにはよい。しかし、ナス栽培でこのフィルムを用いると、果実の着色に影響することがある。また、380mm以下が強く除去されたフィルムの場合に、ミツバチだけでなくセイヨウオオマルハナバチの活動も阻害される。

太陽熱消毒
 夏に作物栽培が終了した時に、前作の害虫を次作に持ち越さないように、ハウスなどを密閉して高温にし、害虫を致死させることは重要だ。あるいは、剪定枝や施設から持ち出した残渣にビニールシートなどをかぶせて高温にし、残渣中の害虫を致死させる。

水に浸漬: 
ダイコンなどを加害するキスジノミハムシは、連作すると密度が高まり、被害が大きくなる。もし、被害の出た圃場を水で浸すことができれば、この方法によって、越冬期間中に越冬成虫密度を低下させることができる。

吸引機 発育が斉一な葉菜類などで、コナガなどの小型害虫を吸引式捕虫機で定期的に採集して、密度を低下させることができる。このための吸引式および吹き出し式捕虫機が市販されている。 

 3)生物的方法

  
A. 天敵利用

 有機農業で使える生物的防除法のうちの天敵利用法には3通りある。1つ目は、露地栽培で圃場内外の天敵相を温存し、その能力を増強、活用する方法である。徘徊性の天敵には、オサムシ類やゴミムシ類がおり、キャベツなどの作物上にも上がってアオムシ、コナガなどチョウ目幼虫を捕食する。クモ類もハスモンヨトウの孵化幼虫を襲う。寄生蜂や寄生バエ、昆虫寄生性微生物が害虫の体内に入り込んで害虫を致死させる。カマキリ、アシナガバチ類、キイロスズメバチ、小鳥などが害虫を捕食する。これらの天敵を温存させ、増殖させる様々な方法を取り入れる。

 例えば、敷き藁や圃場周辺に草生地を作るなどにより地上徘徊性昆虫の隠れ家や住みかを作る、ソルゴーなどのバンカー植物を周辺に植えてアブラムシ類などの天敵(寄生蜂類、テントウムシ類等)を増やし、これらに作物上のアブラムシ類も寄生・捕食させる、圃場周辺に花の咲く植物を植えて吸蜜性の天敵を呼ぶなど様々な方法がある。ただし、作物以外に植える植物は、作物とは異なった分類群の植物とするなど、害虫の発生源とならないように選定する必要がある。

 2つ目は、野外に発生する天敵類をハウスなどの施設内に放飼し、害虫を防除する方法である。これらに使う天敵類は、農薬取締法上では「特定農薬」に分類され、同一県内で採集されたものであれば無登録の天敵であっても使用できる。る。例えば、トマトのハモグリバエ類を防除するために、サヤエンドウを栽培し、サヤエンドウに寄生するがトマトには寄生しないナモグリバエに寄生する寄生蜂のついた葉を採集して、トマトハウス内に持ち込み、マメハモグリバエなどのハモグリバエ類の防除を行う方法がある。多数のテントウムシを採集して施設内に放飼すればアブラムシ類の防除に役立つ。ただし、ナナホシテントウやナミテントウは夏になると夏眠をし、晩秋になれば冬眠してしまいアブラムシを捕食しないので、この時期には当てに出来ない。

 3つ目は、農薬登録された生物的防除素材(天敵類)を購入して、施設内に大量に放し、生物農薬的に使用する方法である。現在、施設栽培野菜などの害虫に対して、企業によって大量生産されたいろいろな天敵が市販されている。これらについては、放飼の時期、回数、密度などの使用方法をよく知ってから利用する必要がある。

 有機農業での生物的防除素材の活用については、別途、解説したのでご覧いただきたい。 

   B. コンパニオンプランツ
 最近、コンパニオンプランツを用いて、害虫による被害を抑制するということをよく聞き、本も出版されている。複数の植物を一緒に植えると、作物の病害虫による被害が防止あるいは抑制されるような植物をコンパニオン植物と言う。コンパニオン植物は、作物である場合と、作物以外の植物の場合がある。例えば、害虫が忌避する臭いを出すコンパニオンプランツを植えると害虫が寄りつきにくい、あるいは害虫を殺すような成分を出すコンパニオン植物を近くに植えると、害虫の産卵や寄生を抑制ないし阻害することができるという。これらの効果は、上記の「混作」のところで触れたことと重複する部分もある。 

4)化学的方法

 この方法には、化学合成農薬ではない天然物由来のピレトリンを含む除虫菊乳剤などの登録農薬の使用も含まれている。フェロモン剤については、化学合成農薬とみられるものの、直接散布しないこと、極めて微量の成分を空中に放出して使われることから、一般の合成農薬とは別の扱いになっており、有機栽培で使用することができる。農林水産省が定めた、有機栽培で使える農薬の種類のうち、害虫防除用の農薬を一覧表にまとめてみた。


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外部リンク
資材の適合性判断のための基準書・個別手順書 (平成 21 年 8 月 27 日農林水産省告示)

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